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急速充電インフラありきではEVは普及しない

投稿日:2019年5月8日 更新日:

急速充電インフラの重要度は低い

今回の記事の主旨は、EVが普及するうえで急速充電インフラの重要度は低いというものです。

はじめに誤解がなきように書いておきますが、急速充電インフラがいらないという話ではありません。

 

まず前提条件として充電インフラの定義について整理しておきます。

細かいことを言いだすと話がややこしくなりすぎるので、今回はざっくりこんな感じという理解でOKです。

 基礎充電経路充電緊急充電目的地充電
充電の形態保管場所での充電移動経路上の充電駆け込み充電ついで充電
主な設置場所住宅、職場道の駅
SAPA
飲食店
道の駅
SAPA
コンビニ
宿泊施設
商業施設
滞在時間の例8時間以上1時間程度30分程度1〜8時間以上
充電器の種類普通充電器急速充電器急速充電器
普通充電器
普通充電器
急速充電器

 

また普通充電器と急速充電器の特徴もざっくり整理しておきます。

 普通充電器急速充電器
充電時間遅い早い
車種への対応ほとんどの
車種で対応
一部の
車種は非対応
充電器の
設置コスト
安価高価
設置スペース小さい大きい

 

2014年から経産省は「電欠なき日本」を目標として、経路充電と目的地充電、すなわち急速充電器の整備に重点をおいてきました。

その結果、急速充電施設の件数は2016年までに7,000基を超え、一般財団法人電力中央研究所によるシミュレーションによると数だけでいえば計算上はすでに電欠が生じないところにまで整備されています。

平成 28 年度 エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費 (EV・PHV の充電インフラに関する調査)調査報告書

 

ところが経産省は「EV・PHVロードマップ」(平成28年3⽉23⽇公表)で2020年までに最大100万台という普及目標(保有台数)を目標として掲げているにもかかわらず、2017年時点では206,780台しか普及していません。

達成率はわずか21%・・・。

急速充電器は足りているはずなのに、EV/PHEVはぜんぜん増えない。。。

 

これにはいくつか要因が考えられます。

もちろん「魅力的な商品がない」とか「EV/PHEVは車両価格が高い」などもあるんですが、充電インフラの観点では以下のようなものが考えられます。

  1. 充電器の設置場所が適切でない
  2. 急速充電器を主力としたインフラ整備のアプローチが間違っている

 

このうち、1.の設置場所に関しては確かにEVに乗っていると空白地域があるなど不便を感じることもありますが、都道府県別の統計を見る限りでは急速充電器が多いからといって必ずしもEV/PHEVの普及率が高いというわけでもないので、あまり相関は無さそうです。

 

となれば、疑わしいのは2.のインフラ整備のアプローチの問題です。

経産省のほうもEV/PHEVの台数が伸び悩む主要因としてマンションなどの充電器の設置が進んでいないことを問題視しており、今後は基礎充電の重要性が高まるとみられます。

電気自動車・プラグインハイブリッド 自動車の充電インフラ整備事業費補助金 について

 



経済合理性がない

とはいえ、繰り返しになりますが急速充電インフラがいらないという話ではありません。むしろ必要です。

EVのバッテリー性能が上がって仮に1チャージで500km走れるようになろうが1,000km走れるようになろうが、外出先で充電するというニーズは無くならないでしょう。

おそらく急速充電器の数が今の5,6倍程度になるまでに整備すればそれなりにEVは普及すると思います。

 

では急速充電器を仮に今の6倍にまで増やすにはどれぐらい金がかかるのでしょうか。

 

ある試算によると急速充電器の設置には620万円程度かかるようです。したがって現在からさらに35,000基を追加しようとすると2170億円!

 

ということで、急速充電器を主軸にEVの普及を進めようとすると、数千億円規模の予算が必要になります。

しかも厄介なことに、充電器のランニングコストで年間70〜130万円程度の費用がかかります。赤字垂れ流しです。

ちなみにEVユーザーから得られる収益の計算は省きますが、電気の単価があまりにも低いので急速充電器の稼働率が上がったところでタカが知れています。

 

これに関して、受益者負担の原則にのっとって「充電器はクルマの一部である」と考えて自動車会社に費用負担を委ねるという考え方もあります。

しかしながら、急速充電器は規格が統一されていて公共性が高いにもかかわらず自動車各社の電動化に対する足並みがそろっていないという実態を踏まえると、先行する企業がインフラの整備をすると後発の企業がそこにタダ乗りしてしまうという「托卵」のような事態が生じます。

つまり急速充電インフラの整備は自動車メーカー側には経済合理性がない。

よって自動車メーカーにインフラの整備を委ねるというのは非現実的。

 

では充電料金のアップによって収益の健全化を図るとどうなるか?

現在EV/PHEVに乗っているユーザー層はいわゆるアーリーアダプター層であり、性能や先進技術、ライフスタイルにマッチしているかという点を重視しているといわれていますが、今後、マジョリティ層への普及を視野に入れると、これまで以上にコスト観点で厳しく評価されることになります。

ここで充電料金をアップしようものなら「車両のイニシャルコストの高さを電気のランニングコストの安さで補う」というEV/PHVの比較優位性が損なわれてしまうのです。

したがって急速充電インフラの整備はユーザー側にも経済合理性もない。

ユーザーにインフラの整備費用を転嫁するのも非現実的です。

 

ということで、急速充電インフラは市場原理に任せている限りは普及しません。

充電器の出力が150kWになろうが350kWになろうが事態は変わりません。

当然のことながら、この状態ではサードパーティが「充電インフラ事業者」として参入することもあり得ません。

だって儲からないんだもん。

 

それなら国から補助金を・・・という意見もありますが、行政の強力なリーダーシップのもとでEVシフトを進められる中国などならいざしらず、日本の基幹産業たる自動車メーカーの多くがエンジンで飯を食っている現状を考えれば、中国のような思い切ったEV優遇はできないでしょう。

 

イノベーションと経済合理性の関係については、2ちゃんねるの開設者ひろゆき(西村博之)氏の著書「このままだと、日本に未来はないよね。」でも指摘されています。

携帯電話でも電気自動車でもいいのですが、新しいビジネスやサービスがこれから普及するかどうかを予測するときには、僕はまず「経済合理性」を考えます。経済合理性にかなっているモノは、基本的には時間の問題で成立するからです。経済合理性にかなっていて成立しないものって、あまりありません。

 

私もひろゆきと同意見です。

このままだと、EVに未来はないよね。

 

ときに人間は不合理な判断をすることもありますが、古今東西で「誰も儲からないけど普及した」なんてものはあんまり無いはずです。

日本の空気は諸外国に比べればキレイなので、環境対策としてのインセンティブも働きづらいでしょう。

 

ノルウェーのEV普及策

ここでヒントになるのがノルウェーのEV普及策です。

 

EVが新車販売の約4割を占めるノルウェーでは、ユーザーにきわめて実利的なインセンティブを与えています。

 

もっとも、ノルウェーは寒冷地ゆえ冬季はガソリン車でも駐車時にエンジンを保護するためのヒーターのプラグを差す習慣があるため、国民はEVのプラグを差すことに違和感がない点も大きいですが。

 

例によってノルウェー政府はパリ協定に基づいて「CO2削減がどうのこうの」とキレイ事をうたっていますが、ユーザー側はきっちり経済的なメリットを享受する形になっています。

要はノルウェー国民にとって、EVに乗ることは経済的な合理性があるんです。

 

 

それでも急速充電は必要です

何度も言いますが、急速充電インフラがいらないという話ではありません。必要です、すごく大事です。

 

急速充電インフラが普及するメリットとしては、

  • 運行計画など面倒なことを考えなくてよい
  • ガソリンスタンドに行くのと同様の行動形態で対応できる
  • バッテリーが大容量化すると自宅で1晩充電したところでフルチャージできない

などがあります。

 

とはいえ、位置づけとしてはあくまで緊急用。いうなれば外先の急速充電は「公衆トイレ」と同じです。

外でウ○コ漏らすのイヤですよねw?私もイヤです。

だから緊急用のインフラは絶対に必要なんです。

 

でも、お漏らしが心配ならそろそろ家にもトイレつけましょうよって話です。

つまり自宅や職場に普通充電器を設置するスキームを考えましょう、ということ。

 

「儲かるしくみ」が先決

急速充電インフラの問題点は「経済合理性がない」です。

 

したがって、インフラには経済的に合理性のあるカタチ、すなわち「インフラ整備事業」として儲けが出るしくみが求められます。

 

ここで注目なのがEVユーザーの居住形態の特徴です。

現在、EVユーザーのじつに9割が一戸建て住居に住んでいます。これはエンジン車にはない特徴です。

端的に言うと、自宅の駐車場で安定的に充電できる環境を確保できるかどうかがEV普及の鍵を握っているのです。

 

もちろんマンションの住人にとって充電器を後付けで設置するには、それはそれでコストのみならず管理組合の合意形成や課金ルールなどいろんな障害はあります。

しかしながら、例えば管理組合で所有しているカーシェアリングと一体運用したり、一棟まるごと新電力契約に切り替えたりするなどすれば、経済合理性の問題をクリアできる可能性がある。

 

特に電力契約に関しては、

設置事業者のインセンティブが最も大きくなると期待されるのは、事業所と充電器の電力需要の全量を新電力が供給する場合である。取り扱う電力量が大きいため、従来契約からのコスト削減量が最も大きくなると期待されるからである。

Source: 一般社団法人次世代自動車振興センター「急速充電器設置インセンティブの可能性に関する分析」

とあるように、健全化が期待されるスキームのひとつです。

 

まとめ

充電インフラについてよく「鶏(インフラ)が先か、卵(クルマ)が先か」の議論がなされますが、これに関しては間違いなく鶏(インフラ)が先です。

しかもクルマだけ作ってインフラは他社に乗っかったもん勝ちのような「托卵」が横行しない仕組みが必要です。

 

そのためには、まず充電インフラの設置・運用の経済合理性を確保すること。

 

これができればインフラは放っておいても勝手に増殖するので(だって儲かるんだもん)、充電環境や充電待ちの問題はおのずと解決すると思いますよ。

 

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