夢の「リチウム-空気電池」に向けて一歩前進

重さやコストを現在の5分の1程度にできるうえ、電気自動車(EV)の走行距離をガソリン車並みに伸ばすことが可能になると言われるリチウム-空気バッテリー(リチウム-酸素バッテリー)。究極の二次電池の候補の一つともされるが、実用化に向けては課題も多い。そうした中、課題のいくつかを解決することで安定性や効率を向上させ、数百回繰り返し充電できる改良型リチウム-空気バッテリーのプロトタイプを、英ケンブリッジ大学などの研究チームが開発した。詳細は10月30日付の米サイエンス誌に掲載された。

リチウム-空気バッテリーは、金属リチウムを負極の活物質に、空気中の酸素を正極の活物質として利用し、リチウムと酸素の化学反応で電気を作り出す。原料となる酸素は空気から取り込み、持ち運ぶ必要がないため、理論上、単位重量あたりの貯蔵エネルギーをガソリン程度にまで高くでき、現在のEVに使われているリチウムイオン電池の10倍ほどのエネルギーを蓄えられるという。その分、実用化も難しく、放電中に酸化リチウムが作られ、電解質が腐食したり、副生成物が電極を覆って機能を低下させしたり、といった問題が指摘されている。

今回、ケンブリッジ大のチームが開発した手法は、リチウム-空気バッテリーの実用化に向け大きな一歩を示す成果で、その改良の一つが有機溶剤であるジメトキシエタンの電解質にヨウ化リチウムと水を加えたこと。これまでのバッテリーでは過酸化リチウムが生成して電極にこびりついてしまい、再充電を邪魔していた。それに対し、このバッテリーでは、リチウムイオンが正極で酸素と反応して水酸化リチウムの結晶ができるものの、水酸化リチウムはバッテリーの再充電が始まると素早く分解される(模式図参照)。

1 Reaction cycle

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さらに正極材料にも工夫を凝らしてある。従来のリチウム-空気バッテリーではさまざまな形状の多孔質カーボン(グラファイト)が使われることが多かったが、研究チームでは多孔質の還元型酸化グラフェンを正極に採用。原子1個分の厚みしかない炭素シートのグラフェンを酸化した後、炭素だけの状態に還元し、穴の多い多孔質にしたもので、こうすることで生成した結晶が正極に付着しにくくした。

実際に試作したバッテリーで実験したところ、性能低下を見せながらも数百サイクルの充放電ができた。論文の筆頭著者であるケンブリッジ大化学部のクレア・グレイ教授は、現在のEVに使われているリチウムイオンバッテリーに比べ、1kg当たり少なくとも5倍のエネルギーを貯蔵できるとみている。

ただし、商業化に向けてはまだ多くの課題が残されている。まずEVが必要とするレベルに対し、電流密度が20分の1から50分の1と十分ではない点。さらに、爆発やショートの原因となるリチウムの樹状突起が負極にできないようにする工夫や、今回の実験が純酸素の雰囲気で行われ、空気に含まれる二酸化炭素や窒素、水分などによる金属電極への影響を考慮していないことなどだ。そうしたことから、リチウム-空気バッテリーの効率性・安定性の向上に一定の道筋をつけた重要な研究成果ではあるが、実用的なリチウム-空気バッテリーの開発には、少なくともあと10年はかかるとみられている。

10年後にはバッテリー容量が10倍に

リチウム空気電池が実用化すれば10年後にはバッテリー容量が10倍に。10年なんてまだまだ先だなぁ、なんて思うことなかれ。

そもそも、現在までにLiイオンセルの容量は10年でおよそ1.5〜2倍程度のペースで進化してきた。これにより過去10年ぐらいでリチウムイオン電池の進化がスマホやEV、ウェアラブル機器、ドローンなどさまざまなデバイスが生み出され、それにより世の中がどう変わってきたかを考えると、10年で10倍という進化はとんでもないジャンプアップとなる。

ただ、現実的には電気自動車については、現状の10倍と言わずとも2〜3倍ぐらいになれば「航続距離がどうのこうの」と言っていたことも過去のこととなるのではないかと思う。